Nakanishiです。トークンエコノミーの社会実装について考えています。
この記事のアジェンダは下記の通り。どうぞ最後までお付き合いください。
・西成(釜ヶ崎)には独自通貨「カマ」がある!
・カマとトークンエコノミーの関連性は?
・カマはどんなシステムなのか?
・カマなど地域通貨はどのように運用されているか?
・地域通貨が抱える課題はなにか
・トークンエコノミーの社会実装のためには
西成(釜ヶ崎)には独自通貨がある!
僕が生まれたときには既に日本銀行券が使われていたので、僕にとって「通貨」と言えば、長い間「日本銀行券」とか「ドル」とか、政府が発行する通貨のことでした。
それが最初に覆されたのは、18歳になって大阪に出てきたとき、「西成には夏祭りのときに使える独自の通貨がある」という話を聞いたときでした。
西成という地域は、日本政府の統治が及ばない自治国家と化しているのか!?という驚きがありました(多分誤解です)。
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西成の独自通貨は、かつてこの地域が「釜ヶ崎」と呼ばれたことにちなんで、「カマ」という名称だそうです。
西成のカマはどのようなものだったのか、トークンエコノミーと照らし合わせて考えてみたいと思います。
カマとトークンエコノミーの関連性は?
結論から言うと、カマのシステムはトークンエコノミーと同じ課題を抱えています。
カマがコミュニティ内の支援と感謝を媒介することによって、助け合うという仕組みを機能的に補助しています。
ただし、その社会実装のためにはスケーラビリティの問題があり、その点がトークンエコノミーと共通しています。
カマはどんなシステムなのか?
カマは、マイケル・リントンが提唱した地域通貨システムLETS(レッツ)を参考に作られたと言われています。
LETSはカナダのバンクーバーで生まれ、最初は地域通貨の固有名詞でしたが、そのシステムが主に英語圏で広がり、現在はシステムの名称となっています。
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LETSでは、参加者(会員)が自主的に通貨を発行できます。
ただし、発行した通貨は、財やサービスの売り手側の口座(台帳やカードなど)に入れなければなりません。
同時に発行者の口座には売り手側と同額の赤字が計上されます。
つまり、発行された地域通貨は必ずプラスマイナスゼロになるのです。
通貨発行者が自分の口座の赤字を消すためには、他の人に財やサービスを提供して、地域通貨による支払いを受けるしかありません。
こうして、その地域内でお互いに財やサービスを提供しあうコミュニティが形成され、互助へのインセンティブが生まれます。
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西成の地域通貨カマにおいては、会員はカマを稼ぐために清掃など軽作業や菜園での農作業を手伝います。
稼いだカマは、喫茶店のモーニング、ヨガ、足裏マッサージなど地域でサービスを提供する会員へ支払われます。
カマなど地域通貨はどのように運用されているか?
LETSシステムには事務局会員と言われる、コミュニティ内の取引を記録する会員がいます。
会員は取引を事務局に報告し、事務局は報告を台帳などに記録して管理します。
LETSシステムの特徴は、口座の管理などを担当する事務局会員と、通常会員の区別があまり無いことで、完全な中央集権的組織ではないことが挙げられます。
LETSシステムでは、地域通貨の交換レートは交換する者同士で自由に決められます。
しかし、通貨の交換レートが一定しないため、コミュニティの外の人(例えば支援したい企業やNPOなど)が参画しづらいという短所があります。
地域通貨が抱える課題はなにか
そこでカマの交換レートを事務局が決める運用になりました。
偽造できない紙幣を利用し、交換レートを事務局が管理することで、コミュニティ外部の企業などの団体が参画しやすくなります。
この運用は、LETSの生みの親であるマイケル・リントンが、LETSの弱点を補うべく開発した「コミュニティウェイ」というシステムに類似しています。
コミュニティウェイ的な運用では、カマの信用は担保されますが、会員や参画する企業など利害関係者間の調整等の事務局負担が大きくなりがちです。
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また、LETS、コミュニティウェイ共通の課題として、支援者やコミュニティ外から参画している企業等は、会員が財やサービスを購入するときに、その一部金額をカマで受け入れることで会員を支援しますが、そのままではカマがたまっていくだけで、割引販売と変わらなくなってしまう問題もあります。
これを解決するためには、売り手側の従業員間や、売り手同士でカマを使って財やサービスを交換できるようにする必要があります。
それにはたくさんの参画者を集めることが必要になりますし、それに比例して管理・調整を行う事務局の負担は増大してしまうのです。
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地域通貨カマにおいても、そのシステムの社会実装のためには、カマを使って購入できる財やサービスがたくさんあることが求められてきます。
また西成の地域特性、つまり古くからその土地に居住している地域住民だけでなく、全国各地から流れてきた日雇い労働者、福祉マンション居住者、路上生活者、短期滞在の旅行者など、様々な人のレイヤーがあり、全ての人がカマの経済圏の中で生活できるわけではないということもあります。
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その一つの解決策として、釜ヶ崎の夏祭りがあり、コミュニティ内外の人がカマを使って楽しむことができる場として機能していると考えられます。
アルミ缶1kgがだいたい200カマと交換でき、お金が無くても祭に参加できるそうです。
トークンエコノミーの社会実装のためには
西成のカマに限らず、トークンエコノミーという言葉が盛んに言われるようになる以前から、特定地域において信用や感謝を媒介する手段としてのトークンと、それを利用できる経済圏は存在していたと思われます。
しかし、各経済圏は独自に運用されており、経済圏同士がその価値を交換することは大変難しかったと言えます。
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ブロックチェーン技術によって、経済圏同士が価値を交換する方法論が確立されつつありますが、レガシーな地域通貨においては、コミュニティ外に開かれた祭という場で利用できるイベントトークン的な役割を地域通貨に持たせることで、その価値の弾力性を高めていたと言えるでしょう。
もともと法定通貨も信用や取引などを媒介するためのトークンとして生まれていると思います。
トークンの信用とスケーラビリティの問題は、人類共通の課題だったと言えそうです。
(釜ヶ崎から目と鼻の先、遊郭の風情を残す飛田新地)
記事の執筆を通じて、次のような課題が見えてきました。
・日本の他の地域に地域通貨はあるのか?
・世界にはどんな地域通貨と経済圏があるのか?
・そもそも通貨って何だ…??
今後もトークンエコノミーの社会実装、トークン=媒介するもの、というテーマで記事を書いてみたいと思います。
Masafumi Nakanishi
Twitter: https://twitter.com/msfmnkns
https://noizma.com/
ALISにも同じ記事を載せています:https://alis.to/msfmnkns/articles/3757Qw4r1ypL
ALISの記事リンクはこちらかと
https://alis.to/msfmnkns/articles/3757Qw4r1ypL
https://alis.to/me/ は自分の編集用記事一覧のリンクなので
覚えておくとミスを防げると思います。
これは親切にありがとうございます!修正しておきます!